配偶者控除の現状と動向
◆配偶者控除、一転して存続へ
そろそろ年末調整が気になり出す時期となりました。毎年政策論議となりますのは、これまでの配偶者控除制度をどうするかということです。
政府・与党は、「働き方改革」の一環である所得税の配偶者控除廃止について、来年度は見送りにすることを決定しました。廃止から一転、対象範囲を広げるべきという議論も出てきています。
現時点でこの「配偶者控除」の先行きは不透明ですが、これが企業に与える影響について今月号では取り上げてみたいと思います。

◆現行税制のおさらい(妻の所得と税金)
 妻の所得と税金の関係がどうなっているか現行税制をおさらいしてみます。
会社員の妻の多くは「103万円の壁」にあわせてパートに出ております。会社員の妻がパートなどで収入を得ると、年収に応じて以下のものが発生します。

・100万円以上:住民税が発生します。
・103万円以上:所得税が発生(夫の配偶者控除がなくなる)・・・いわゆる「103万円の壁」です
・106万円以上:一部に社会保険料が発生(今年10月以降、一定要件を満たす者のみ)
・130万円以上:社会保険料負担が発生します。
 社会保険料負担は金額的にも大きくなります。
・141万円以上:夫の配偶者特別控除がなくなります。
パートとして働く会社員の妻の多くが、この「103万円の壁」を超えないよう調整しているのは周知の通りです。別な見方をすれば、本来フルに働いて戦力化できる女性労働力が「103万円の壁」のために埋没し社会的損失となっていることが我が国労働力確保上の課題となっております。

◆多くの企業も「103万円の壁」に合わせて配偶者手当を支給
一方で企業側も、「103万円の壁」に合わせて家族手当(配偶者手当)を支給しています。
人事院の「平成27年 職種別民間給与実態調査」によると、家族手当を支給している企業のうち半数以上(約58.5%)が、手当を支給する従業員の配偶者の収入を「103万円」までに制限しています。
これは年末調整において、従業員の配偶者の収入が103万円の上限を超えていないか、容易に確認できるからです。僅かにせよ103万円を超過すると、夫の配偶者控除がなくなる上に会社の配偶者手当も無くなるならば、年収103万円未満で抑えておこうという生活防衛策も理解できます。

◆配偶者控除に影響されない家族手当の議論
将来的に配偶者控除が廃止されるにせよ、逆に対象範囲が拡大されるにせよ、「103万円の壁」を基準として家族手当(配偶者手当)の額を定めている多くの企業はその基準を失うこととなります。
すでにトヨタ自動車やホンダといった企業が扶養配偶者への手当を廃止し、その分子供への手当を増額すると発表しています。
税制の変動のタイミングに合わせて従来の家族手当制度を見直すべき時期に来ているのかもしれません。

「若年性認知症」と企業の対応
◆「若年性認知症」対策は企業の課題
判断力が鈍くなった、何度も同じことを繰り返し聞くようになった――「もしかしたら『認知症』かもしれない」、そんな社員はいませんか?
65歳以上の発症を「認知症」、65歳未満の発症を「若年性認知症」と言います。特に若年性認知症は、職場や家庭で様々な役割を担う働き盛りの年代で発症することが多い(2009年の厚生労働省推計では、平均発症年齢は51.3歳)一方で、就労経験のある若年性認知症患者の約8割が離職(厚生労働省「患者生活実態調査」2014年)を余儀なくされ収入源を絶たれるなど、影響は深刻です。
65歳までの雇用義務化で働くシニア層が急増する中、「社員が認知症になったらどう対処するか」は、今後、企業にとっての大きな課題となると言えます。

◆大切なのは「早期発見」と「適切な対処」
若年性認知症の場合、認知症への知識不足(「この年で認知症になんてなるはずがないし、物忘れは加齢のせい」)や、認知症と診断されるリスクへのおそれ(「認知症だと診断されたら、働き続けることができない」)などから、医療機関の受診が遅くなりがちです。
しかし、認知症は、早期に適切な治療を受けることによって症状の進行を抑えられることもあると言われております。特に職場では、普段と違う行動や言動の変化にも気がつきやすいと考えられますので、「あれっ?」と思った時に医療機関につなげてあげることが肝要です。
また、認知症との診断を受けたとしても、疲労に配慮して就労時間を短くしたり、業務内容を変えたりする(正確性が強く求められる業務は難しいが、比較的単純な労務作業であれば継続が可能)など、職場の対応いかんにより長く働き続けることができる可能性も高まります。
このような適切な対処によりコミュニティに参加し続けることは、進行を遅らせることにもつながります。

◆活用したい「若年性認知症支援コーディネーター」
厚生労働省は今年度から、都道府県に「若年性認知症支援コーディネーター」を配置しています。職場に対しては、勤務調整や就労継続のためのアドバイスをするほか、職場復帰のための支援もしてくれますので、ぜひ活用したい存在です。

事務所から一言
 また、電通で新入女子社員の過労自殺があり労災認定を受けました。本来は若い女性にとり一年中で一番楽しみな筈の昨年のクリスマスに女子寮の手すりを飛び越えた投身自殺でした。過労死認定基準である直前1月の時間外勤務100時間をはるかに上回る過酷な時間外労働であったと報道されております。
 電通は平成3年に同じく新入社員が過酷な時間外労働のため自宅で縊死自殺を行い、裁判の結果使用者責任を問われた電通が1億6800万円を支払うことで遺族と和解が成立しております。ともに過剰労働で身体がぼろぼろになった揚げ句の痛ましい自殺です。
 なぜに電通はかくも懲りないのだろうかという素朴な疑問が湧いてきますが、先日の広告料不正請求問題で同社社長が社員へ発したメッセージで、原因は電通の「組織の風土」としたことはいみじくも正鵠を得ていると思います。
 歴史のある企業であればあるほど、「組織の風土」つまり社風があります。この社風は社員の体の中にいつの間にか染み、はがれ落ちることはありません。社員は鬼の十則の下如何なる事情があろうと社員を突き放し這い上がらせるのでしょうか。それは違うと思います。是正すべきは電通の社風の方であると確信します。

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