「ブラック企業」の取締り強化へ(厚労省)会社も備えが必要
◆4,000事業所へ重点的指導・監督
本年4月の当事務所便りで、東証一部上場大手居酒屋チェーン「大庄」の過労死裁判を取り上げました。大阪高裁は、入社4ヵ月後に心機能不全で過労死した新人従業員の遺族に対し会社が7860万円の損害賠償を行うことを命じております。
判決を見て驚くべきことは、同社賃金は本給123,200円(地域最低賃金)であり、役割給71,300円は月80時間の残業を行って初めて支給されるものの、残業が80時間より少ないとその分給与カットされるというものでした。ほぼ毎日4時間程度残業しなければ20万円弱の給与が得られない中で若い命が失われました。
こうした社会的問題を背景として、厚生労働省は、9月を「過重労働重点監督月間」と定め若年労働者等の使い捨てが疑われる企業(いわゆる「ブラック企業」)約4,000事業所について、重点的に指導・監督を実施します。
◆1日で1千件を超えるブラック企業相談
厚労省では、9月1日、全国一斉に過重労働が疑われる企業などに関する無料電話相談を受けたところ、1日で1,042件(速報値)の相談がありました。相談内容(複数回答)の内訳は、「賃金不払い残業」が全体の53%、「長時間労働・加重労働」が40%、「パワーハラスメント」が16%となりました。具体的には、サービス残業の手口として、「タイムカードを定時に打刻するよう強要されたこと」、「有給休暇を申請したのに会社は欠勤扱いとしたこと」等があります。パワハラでは「上司から顔を殴られた」、「勤務部署異動後研修もなく放置され、仕事ができていないと上司から退職を強要された」、「草むしりなどの無意味な作業をさせられた」等の精神的なハラスメントも目立っておりました。
厚労省ではこれらのデータを蓄積集計し、労基法違反の疑いが強い企業には監督指導が行われることとなります。さらに、来年度からは民間業者に委託して夜間・休日に対応するフリーダイヤルを設置予定とされており、対策が強化される方向です。
◆人材募集文言に注意
どの企業でも、若くて優秀な新人はいつでも募集したいとの思いがあります。新人を育て上げ会社の中核にすることは会社の変わらぬ最重要課題です。そのためにはブラック企業の名指しは絶対避けなければなりません。しかしながら、ある報道番組によれば、新人側でもブラック企業に対する警戒感が強くなり、人材募集文言の禁句も生まれているそうです。例えば「入社即幹部候補」は「薄給に釣り合わぬ重責な仕事」であり、「平均20代の若い会社」は「社員の入れ替わりが激しい会社」と読み替えられてしまうそうです。人材募集文言にも配慮が必要となります。
◆うちの会社は大丈夫だ!?
皆様の会社では労基法を遵守されており、ブラック企業とは無関係だと思われているかも知れません。しかしながら、いつ何時内部通報を受けた労基署から思わぬ立ち入り調査が入るかもしれませんので注意が必要です。
一昔前の労使関係は、会社に滅私奉公すればいずれ出世が出来るという期待がありましたが(ウェット型関係)、いまでは労働と賃金の見合い関係のみの乾いた労使関係(ドライ型関係)が多勢を占めております。そして経営者と労働者の意識ギャップが労働問題につながることがあります。つまり、会社では取るに足らない残業と思っても労働者には残業不払いの切り口となります。あるいは、従業員によかれと思い会社が善意で実施した時間外の教育訓練が、従業員にとっては時間外勤務命令に対する残業料不払い請求となります。いざ労基署の立ち会いとなったときには、会社としてきちんと反証できる管理体制が必要です。
◆就業規則にご注意下さい
労使紛争が発生した時に、正否判定の根拠となるものが就業規則です。就業規則の法的効力は大きく、記載内容によっては会社にとりいわば守り神にも凶器にもなることもあります。労使トラブルが発生したとき、従業員は就業規則の盲点を懸命に探し事業主よりも就業規則に詳しくなる事例もあります。
例えば勤務素行不良社員に対する解雇規程が就業規則になく(あるいは曖昧のため)解雇できず、それでも改悛しないため怒って「クビだ」といったら解雇権濫用で訴えられたケースや、パートタイマーの就業規則を分離整備しないまま放置した就業規則を盾にとられ、正社員と同等な待遇(有給休暇・退職金等)を迫られたことなど枚挙に暇がありません。これらのトラブルをあげつらわれ、インターネットで風評を掲示され、最悪ブラック企業呼ばわりされないためにも就業規則の整備は大切です。勤務する会社で度々労使トラブルを起こし、あるいは転職する先々の会社で労使トラブルを起こすいわばブラック社員も世の中にいることは承知しておくべきことかもしれません。
最低賃金の引き上げ動向
◆平均で14円の引上げに
中小企業に影響のある最低賃金が引き上げられます。政府は、今年10月頃に予定している平成25年度改定に合わせて、最低賃金の額の引上げ方針を固めました。
引上げ幅は全国平均で「14円」が目安とされています。現在の最低賃金(時給)は、全国平均で749円ですので、763円への引上げになります。今後はこれを目安に、都道府県ごとの最低賃金が決定されます。
◆生活保護水準との逆転是正方向
生活保護水準が最低賃金を上回る逆転現象が生じている11都道府県については、乖離額が最も大きい北海道では原則2年以内、それ以外の10都府県(青森、宮城、埼玉、千葉、東京、神奈川、京都、大阪、兵庫、広島)では原則1年以内の解消を目指すこととなります。生活保護費と最低賃金では算出基礎が異なりますが、働く者の収入が生活保護費より低い現象は感覚的も常識的にも早期に是正されるべきものと思われます。
◆最低賃金に関する注意点
先日当職の家の近くの大きなペットショップで、時給825円でパートを募集しておりました。私の住む神奈川県の最低賃金は現在849円であり、明らかな法令違反であり、最低賃金法第4条違反、罰金50万円に該当します。
しかしながら、多くの募集する側にはあまり最低賃金の認識がないと言ってよい実態と思われます。また、会社の賃金規定で「時給は最低賃金による」とされていながら、見直しが長年されていない場合があります。事業主としては地域の最低賃金は承知しておく必要があると思います。
◆4,000事業所へ重点的指導・監督
本年4月の当事務所便りで、東証一部上場大手居酒屋チェーン「大庄」の過労死裁判を取り上げました。大阪高裁は、入社4ヵ月後に心機能不全で過労死した新人従業員の遺族に対し会社が7860万円の損害賠償を行うことを命じております。
判決を見て驚くべきことは、同社賃金は本給123,200円(地域最低賃金)であり、役割給71,300円は月80時間の残業を行って初めて支給されるものの、残業が80時間より少ないとその分給与カットされるというものでした。ほぼ毎日4時間程度残業しなければ20万円弱の給与が得られない中で若い命が失われました。
こうした社会的問題を背景として、厚生労働省は、9月を「過重労働重点監督月間」と定め若年労働者等の使い捨てが疑われる企業(いわゆる「ブラック企業」)約4,000事業所について、重点的に指導・監督を実施します。
◆1日で1千件を超えるブラック企業相談
厚労省では、9月1日、全国一斉に過重労働が疑われる企業などに関する無料電話相談を受けたところ、1日で1,042件(速報値)の相談がありました。相談内容(複数回答)の内訳は、「賃金不払い残業」が全体の53%、「長時間労働・加重労働」が40%、「パワーハラスメント」が16%となりました。具体的には、サービス残業の手口として、「タイムカードを定時に打刻するよう強要されたこと」、「有給休暇を申請したのに会社は欠勤扱いとしたこと」等があります。パワハラでは「上司から顔を殴られた」、「勤務部署異動後研修もなく放置され、仕事ができていないと上司から退職を強要された」、「草むしりなどの無意味な作業をさせられた」等の精神的なハラスメントも目立っておりました。
厚労省ではこれらのデータを蓄積集計し、労基法違反の疑いが強い企業には監督指導が行われることとなります。さらに、来年度からは民間業者に委託して夜間・休日に対応するフリーダイヤルを設置予定とされており、対策が強化される方向です。
◆人材募集文言に注意
どの企業でも、若くて優秀な新人はいつでも募集したいとの思いがあります。新人を育て上げ会社の中核にすることは会社の変わらぬ最重要課題です。そのためにはブラック企業の名指しは絶対避けなければなりません。しかしながら、ある報道番組によれば、新人側でもブラック企業に対する警戒感が強くなり、人材募集文言の禁句も生まれているそうです。例えば「入社即幹部候補」は「薄給に釣り合わぬ重責な仕事」であり、「平均20代の若い会社」は「社員の入れ替わりが激しい会社」と読み替えられてしまうそうです。人材募集文言にも配慮が必要となります。
◆うちの会社は大丈夫だ!?
皆様の会社では労基法を遵守されており、ブラック企業とは無関係だと思われているかも知れません。しかしながら、いつ何時内部通報を受けた労基署から思わぬ立ち入り調査が入るかもしれませんので注意が必要です。
一昔前の労使関係は、会社に滅私奉公すればいずれ出世が出来るという期待がありましたが(ウェット型関係)、いまでは労働と賃金の見合い関係のみの乾いた労使関係(ドライ型関係)が多勢を占めております。そして経営者と労働者の意識ギャップが労働問題につながることがあります。つまり、会社では取るに足らない残業と思っても労働者には残業不払いの切り口となります。あるいは、従業員によかれと思い会社が善意で実施した時間外の教育訓練が、従業員にとっては時間外勤務命令に対する残業料不払い請求となります。いざ労基署の立ち会いとなったときには、会社としてきちんと反証できる管理体制が必要です。
◆就業規則にご注意下さい
労使紛争が発生した時に、正否判定の根拠となるものが就業規則です。就業規則の法的効力は大きく、記載内容によっては会社にとりいわば守り神にも凶器にもなることもあります。労使トラブルが発生したとき、従業員は就業規則の盲点を懸命に探し事業主よりも就業規則に詳しくなる事例もあります。
例えば勤務素行不良社員に対する解雇規程が就業規則になく(あるいは曖昧のため)解雇できず、それでも改悛しないため怒って「クビだ」といったら解雇権濫用で訴えられたケースや、パートタイマーの就業規則を分離整備しないまま放置した就業規則を盾にとられ、正社員と同等な待遇(有給休暇・退職金等)を迫られたことなど枚挙に暇がありません。これらのトラブルをあげつらわれ、インターネットで風評を掲示され、最悪ブラック企業呼ばわりされないためにも就業規則の整備は大切です。勤務する会社で度々労使トラブルを起こし、あるいは転職する先々の会社で労使トラブルを起こすいわばブラック社員も世の中にいることは承知しておくべきことかもしれません。
最低賃金の引き上げ動向
◆平均で14円の引上げに
中小企業に影響のある最低賃金が引き上げられます。政府は、今年10月頃に予定している平成25年度改定に合わせて、最低賃金の額の引上げ方針を固めました。
引上げ幅は全国平均で「14円」が目安とされています。現在の最低賃金(時給)は、全国平均で749円ですので、763円への引上げになります。今後はこれを目安に、都道府県ごとの最低賃金が決定されます。
◆生活保護水準との逆転是正方向
生活保護水準が最低賃金を上回る逆転現象が生じている11都道府県については、乖離額が最も大きい北海道では原則2年以内、それ以外の10都府県(青森、宮城、埼玉、千葉、東京、神奈川、京都、大阪、兵庫、広島)では原則1年以内の解消を目指すこととなります。生活保護費と最低賃金では算出基礎が異なりますが、働く者の収入が生活保護費より低い現象は感覚的も常識的にも早期に是正されるべきものと思われます。
◆最低賃金に関する注意点
先日当職の家の近くの大きなペットショップで、時給825円でパートを募集しておりました。私の住む神奈川県の最低賃金は現在849円であり、明らかな法令違反であり、最低賃金法第4条違反、罰金50万円に該当します。
しかしながら、多くの募集する側にはあまり最低賃金の認識がないと言ってよい実態と思われます。また、会社の賃金規定で「時給は最低賃金による」とされていながら、見直しが長年されていない場合があります。事業主としては地域の最低賃金は承知しておく必要があると思います。