2020年10月号|新宿区の助成金申請代行・就業規則作成なら、社会保険労務士法人渡邊人事労務パートナーズにお任せください。

社会保険労務士法人 渡邊人事労務パートナーズ 代表社会保険労務士 渡邊武夫
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2020年10月号

パートタイム・有期雇用労働法の施行目前

◆同一労働同一賃金まであと半年(中小企業)
大企業に対しては2020年4月に、いわゆる「働き方改革関連法」(パートタイム・有期雇用労働法、改正派遣法等)による「同一労働同一賃金」がすでに適用されております。中小企業への適用は1年遅れの2021年4月に迫っております。実はこの法令の実施は中小企業に大きな影響を与えることが想定されます。

この法令により、パートタイマーだから、或いは有期雇用契約者だから、給与や諸待遇が正社員より劣るのは当たり前ということが言えなくなります。これまで言われてきたような「正規と非正規では将来の役割期待が異なることから給与・諸待遇が違っても当然」という通説的な説明ではもはや対応できなくなります。また、なぜ給料等諸待遇に差があるのかパートタイマーや有期雇用社員から説明を求められた時に明確な説明責任も果たさなくてはならないと同法令で定められております。

◆同一労働同一賃金となる場合とは
 同一労働同一賃金とは頭では分かったような気がしますが、それでは何が同一のときには同一賃金を支払わなければならないのでしょうか。
法令には以下の通り記載されております。
1.労働者の業務の内容と責任の程度が同じ
2.労働者の職務の内容と配置が同じ
3.その他勘案すべき個別事情がない
(同一労働同一賃金に反する典型例)
正社員Aと有期雇用労働者Bが全く同じ仕事を、同じ責任を負って、人事異動も同じくある会社の場合を想定します。
正社員A:基本給30万円、通勤手当3万円、皆勤手当2万円、住宅手当2万円
有期社員B:時給1,500円、通勤手当1万円、皆勤手当1万円、住宅手当なし

正社員Aと有期社員Bは、社員としての職務、責任、人材活用方法が全く同じであり、違うのは入社の時の身分(正社員と有期社員)だけです。従来なら、この身分差があるので給与差は当然とされておりました。しかしながら、法令施行により正社員Aと有期社員Bを同一労働同一賃金にしなくてはならなくなります。具体的には有期社員Bの待遇を正社員Aと同等に引き上げるのか、或いは正社員Aの待遇を引き下げて有期社員Bと同等にするのか選択を迫られます。なお、正社員Aの待遇を引き下げる場合には就業規則の不利益変更の問題も発生します。

◆最高裁判決によるケーススタディ
 正社員と有期・パート社員との待遇格差は企業ごとに様々な態様があり、格差是正を求める訴えに対する最高裁判決がこのところ続いております。最高裁判決から同一労働同一賃金の考え方を見ていきたいと思います。

1.ハマキョウレックス事件(運輸業)
  これまで有期社員に支給されていなかった、あるいは金額差のあった、@無事故手当、A作業手当、B給食手当、C通勤手当、D皆勤手当について同一労働同一賃金に反するとして是正が命じられました。ただし、住宅手当については、正社員には転居を伴う配転があるため格差に不合理はないとされました。この判決は正社員のみに対し様々な手当を支給する賃金体系の在り方に警鐘を鳴らしております。

2.長澤運輸事件(運輸業)
  同社を定年退職して嘱託再雇用となった社員が、能率給、職務給、精勤手当、住宅手当、家族手当、役付手当、超勤手当、賞与について正社員との格差是正を求めた裁判です。最高裁は精勤手当だけを是認し、その他に不合理性はないと却下しました。この判決では、格差の実態だけの判断だけではなく、嘱託再雇用者が退職金を得て年金も受給していることを総合的に勘案したものであり、同一労働同一賃金の考え方の「その他個別事情がある」場合とされました。定年退職後の嘱託再雇用者を雇用する企業には参考になる判決です。

3.大阪医大事件、東京メトロ事件
  大阪医大事件は賞与不支給、東京メトロ事件は退職金不支給に対してそれぞれ非正規社員が争った事件です。最高裁の判決では賞与や退職金の本件不支給は不合理とは言えないとして、訴えを退けました。最高裁が重視したのは、それぞれの非正規社員担当業務が正社員と比較して同等なのか、あるいは限定された業務であるかということでした。大阪医大事件では非正規社員にはない正社員の担当業務を検証したうえで「非正規社員の業務は相当に軽易と伺われる」とし、東京メトロ事件では正社員が非正規雇用の欠勤や不在を穴埋めし、複数の店を統括することに対して、「非正規社員は売店業務専従で一定の相違があった」とされております。


◆同法令施行に対する今後の対応
  ある日突然非正規社員が、わが社の賃金体系はパートタイム・有期雇用労働法違反であり、非正規社員の賃金体系を改善してほしいと言い出すかもしれません。このような不測の事態に備えて、自社の賃金体系や諸手当について検証しておくことをお勧めします。具体的には、正社員と非正規社員の職務分析により、非正規社員の限定的業務に対して、正社員が包括的に業務を担っていること、業務成果の責任所在が正社員に負わされていること、転勤や異動等人材活用の仕組みが正社員だけに求められていることなどを洗い出しの上、労働内容を吟味し区別しておくことが必要です。

  厚労省のガイドラインでは各手当について「待遇の性質、目的」に着目しております。役職手当(同一の内容の役職)、特殊作業(同一の危険度)、精皆勤手当(同一業務内容)、地域手当(同一地域)等業務の性質と目的が同一の場合には、正社員と非正規社員ともに同一賃金が求められます。また、通勤手当・出張手当や食事手当は手当の性格上同一とされております。

 これからも同一労働同一賃金に対する判例の積み重ねがあると思いますが、承知しておきたいことは、社員評価はこれまでの身分基準から労働基準に変わることです。

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